Monster Makers’ Conflict-第2部第1章第6話:壊れた生糸 | 回廊蝦蛄日和

Monster Makers’ Conflict-第2部第1章第6話:壊れた生糸

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第2部:歴史の復活

リザレクションのアンソロジーコミックから
今回のお話を思いつきました

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第1章:ブルグナの大異変

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第6話:壊れた生糸

アルバラードは全力で走っていた
反対側に出口がある事は知っている
そこに行くまでにオークと遭遇する危険が高いものの
オークに捕まる方がシャットに捕らわれるよりマシだと考えていた
少なくともシャットと違い命を狙われるまでの覚えはない
捕まってもすぐに殺される事はないだろう
それに、後ろからサンセールが護衛として来てくれているはずだし
反対側には仲間も呼んである
態勢を立て直して再度突入するくらいはできるだろう
問題は、頼みのサンセールをシャットにぶつけなければならないことだ
いくらサンセールが強いと言っても
あの頭目が相手では勝てるかどうか・・・・・・
「すいません」
黒いローブの男が目の前に現れた
オークじゃない、ヒューマンだ
少なくとも見た目は
「あなた、『猟犬』なんですね?」
「そ、そうだ!
オレは『スパニエル』のアルバラードだ!」
血のように赤い本を抱えたそいつの問いかけに、なぜかアルバラードは答えた
答えてしまった
油断したのもあるし、サンセールが寄越した救援の可能性に賭けたのもある
しかし、相手は・・・・・笑った
キュウと口の両端が吊り上がり鋭い歯の並ぶ口が少し開く
「申し遅れました、私は『パトロン・ミネット』司令官
ガマグチヨタカ准将と申します」
『パトロン・ミネット』、その名前を聞いて
アルバラードは一気に血の気が引いた
エルセアの仲間を壊滅させたグループだ
命からがら逃げた仲間からの連絡で知っていた
「あなたはリストにないのですけど
エサにはなりますよね?」
その意味を理解する前に、アルバラードの首に固い何かが巻き付き
意識を刈り取った
*
*
*
思い出す、『大戦』の記憶
ベングのあの貴族領主の生糸への理不尽な増税に抗議に出向いたら
領主の兵に追われる羽目になったこと
自分たちを逃がすために留まり捕まり領主の館で処刑されたアルボア
彼女とともに育てた馬と一緒に援軍を呼びに走り自身の同族に殺されたクロワルース
奔走した末に行方知れずになったオルボワ
切り札の浮遊城を使い最期まで部族を守ろうとしたミューザ長老
脱出を促す敵に背を向け個室に籠ってカギをかけ
崩れる城と滅びるノルズリと運命を共にするしかできなかった
反乱のきっかけを作った無力な自分

税に文句を言ったこと
たったそれだけの、ささいなことがきっかけで
自分は全てを巻き込み全てを失った・・・
「お姉ちゃん?」
心配そうに歌を止めた自分を見上げる子供の声と
小さな手による揺さぶりで、カオニュは現実に戻る
目の前の男は敵だ
子供たちを守らなければ・・・
”皆の仇を討たなければ”ならない
「よくも・・・」
カオニュは懐から生糸の束を取り出した
「よくもみんなを!!」
子供たちの前に飛び出しサンセールにそれを放つ
「うお!?」
急なカオニュの動きにさしものサンセールも虚を突かれた
生糸を素手で払いのけようとしたが嫌な予感を覚え
傍にあった箒を手にして放る
ぎり・・・べきぃ!
生糸は鋼線か生物の触手かのように箒に巻き付き絡めとると
締め上げてへし折った
「覚悟はいい?
ノルズリのみんなの仇、取らせてもらいます!」
サンセールは戸惑った
ここのオークたちは『ノルズリ』などという部族ではないだろう
第一、各地から集まってきた烏合の衆だ
生活に困った多くの部族が集まってできた赤の他人の共同体でしかない
「まて、エルフの娘よ、お前は何を・・・」
「あなたの次は領主のブルゴーニュ様です!」
サンセールは相手が何を言っているのか本当に分からない
今の彼を雇うケフルの城主はそんな名前ではない
いや、だがその名前には聞き覚えがあった
暇つぶしに読んだ古い文献にあった
ベングの一部分を治めていた、領主の家の名前が確か・・・・・
その文献にあった部族反乱の首謀者と目の前の娘の特徴が一致する
「前世の記憶に狂わされたか、カオニュ!!」
悲鳴に近い叫びを娘の名前とともにサンセールは口にした
今のリザレクション・エイジでは『転生』は珍しくない出来事だ
ただしそれは必ずしも良い結果をもたらすわけではない
例えば、結婚していた人物の亡くなった妻が別の人物の妻に転生したり
といった具合に一波乱ある複雑な出来事をしでかすこともある
そして、カオニュのように前世での出来事に引きずられてしまう者もいた
部屋の中は不利だ、逃げ回っても見えにくい細い糸に絡めとられる
そう判断したサンセールは部屋から飛び出した
カオニュも後に続く
「くっ!」
左腕の露出部分を糸がかすめた
それだけで鋭い剣の斬撃を受けたように皮と肉が裂けて出血が生じる
サンセールは相手の武器がただの生糸ではなく『斬糸』に近いものだと認識を改めた
そして、今は自分が狩られる側になってしまったことも理解した
*
*
*
あたしはアルボア、オークの難民キャンプの守りを任された女闘士だ
ここに来ているはずのモンドールは今のところ何のリアクションも起こしていない
いや、たぶんすでに出て行った後だろう
あたしらもオークも、あいつが逃げるための時間稼ぎにされたんだ
でかい音がしたんでそっちのほうに行ってみたけど
こっそり覗いたところどうやらシャーズが暴れているだけらしかった
リュミールを助けに来た連中だというのは他のメンツで分かったものの
なんでこの場であの二人は暴れ回っているのかがわからない
敵地だぞ、ここ?
ひとまずあたしはこいつらは放っておくことにした
襲撃者とは関係なさそうだしリュミールを取り返したらすぐにどこかに行くだろうと踏んだ
それより問題は、別の奴らだ
長老からの連絡で戦闘員のオークが何人か斬られたことが分かった
襲撃者は別にいる
それもより攻撃的な奴だ
ホエイが使い魔を寄越してくれた連絡では
あいつが追いかけたのはそいつの雇い主らしい
よりによってあいつに追われる羽目になった雇い主は気の毒だけど
まぁ命までは取られないだろう
一応、生け捕りにするように使い魔に返信を言いつけて
あたしはホエイが雇い主を捕まえる間の時間稼ぎをすべく剣士を探した
ホエイの連絡ではそいつは居なかった
砦の中ではぐれたんだろう
護衛を振り切るとか馬鹿な雇い主だと思うけど、そのおかげで助かった
今頃、護衛は慌てて雇い主を探し回ってるに違いない
あたしは剣士を探すうちに地面に血痕を見つけた
そいつは、カオニュがいるはずの方に向かって続いていた
あたしは慌ててそちらへ向かう
途中で大きな音がして、あたしは加速して部屋に飛び込んだ
「どうしたカオニュ!?」
そこに部屋の主はいなかった
片隅で一塊になっているオークの子供たちと折れた箒があった
「アルボアお姉ちゃん!」
子供たちが一斉にあたしに向かってきて抱き着く
そして泣き出し始めた
これを止める手段をあたしは知らない
早くカオニュを探したいんだけど・・・
戸惑っていると子供たちは口々に話をはじめた
「カオニュお姉ちゃんが守ってくれたの」
「怖い鬼みたいな剣士から守ってくれたの」
「それで、そいつを追いかけて行っちゃったの」
あたしは胸騒ぎがした
明らかに、あたしの知るカオニュの行動じゃない
前世のあたしの知っているカオニュは、こんな事をする子じゃなかった
荒事とは無縁な、絹糸を扱う商人で絹織物職人だったはずだ
「もう少しだけ、ここに隠れていてくれ
カオニュを探してくるから、な?」
あたしは一番大きい女の子の頭をなでて言った
「お姉ちゃん、この子らを頼むぜ」
その子と目を合わせて互いに頷き合うと
あたしは部屋から出てドアを閉めた
内側からカギのかかる音がして
あたしは再び地面に目をやる
土が入りまくったせいで石畳からただの地面になっているそこに
あたしが追ったのとは別の血痕があった
新しい、剣から滴ったものじゃない
肉体から飛び出てまだ間もない血液だ
これが襲撃者かカオニュのかまでは、あたしには分からない
けれども両者が戦闘中だということは察せられた
あたしは新しい血の痕を追って駆け出した

(つづく)

 

<解説>

解説1:領主のブルゴーニュ様

「カオニュの乱」のきっかけを作った人物であり
その後の対応のまずさで一揆を一部族が全力で向かってくる
大規模抗争に発展させた人
病死した父親の跡を継いだばかりで
優秀だった父親に負けない治世をしようとした結果
圧政になってしまったという典型パターン
その後も最悪の対応を繰り返して
ボヤで済んでいた話を大火事にしてしまいました

 

解説2:前世の記憶に狂わされた

元ネタはアンソロジーコミック「マスターズ」収録のお話より
そのお話では「闇」を転生時に取り込んでしまい狂った人物が登場しました

ではまた

 

 

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