Monster Makers’ Conflict-第2部第2章第8話:白の副官の回想
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第2部:歴史の復活
長ノーヒアと
ヴェストリの里で待つ副官の思い出と回想
第2章:浮遊城戦争、勃発す
////////////////////////// //////////////////////////第8話:白の副官の回想
身代金と引き換えの人質交換も停戦も一方的に破棄された
横暴な領主軍との交戦中にクロワルースは
親友とともに育てた愛馬『ピノワール』と共に駆け出した
逃げるためではない
ノルズリの族長ミューザの姉に当たる者が治める部族であり
彼女の故郷でもある『ヴェストリ』に救援を求めるためだ
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ヴェストリの長ノーヒアは自分の決断を後悔していない
長い目で見れば、これは必要なことなのだ
そう自分に言い聞かせていた
『フェニキス』の暴走を懸念しその芽を早いうち摘み取るには
このベングの地の影響をまず取り除く必要がある
ミューザたちには気の毒だと思うが、囮になってもらおう
あの連中が利用しようとしている『ベイオエント』は
今起きている第四次モンスターメーカー戦争で、とんでもない事態を引き起こす
それをどうにかできるのは、ルフィーアだけだ
彼女の安全は何としても確保せねばならない
たとえ、全世界から『裏切り』の誹りを受けたとしても・・・
だから、ノルズリにも理不尽ながら被ってもらうことにした
おあつらえ向きに、呪術を扱う長のミューザは評判が良くない
ノルズリ族の独立心の高い気質は度々北から入ってきた
ベング高原への入植者やゾラリアの貴族との衝突を起こしていた
世界を敵に回してルフィーアを庇う組織として誰も不思議に思わないだろう
うわさを流すのと前後して支配地域の領主に対し反乱を起こしてくれた
あの妹が自分の心情を慮り敢えて演じた訳でないことは分かっている
この反乱は周辺部族や反ゾラリア派からの協力を取り付けられず失敗するだろう
だが『トリカゴ』の司令官が存在することで少なくとも『囮』はしばらくはもつはずだ
妹に殺されても文句は言えない非情かつ冷酷な選択
それを分かりながらノーヒアは敢えてその策を行った
人質に近い形で部族の一員であり自分の妹分クロワルースを預けていたが
彼女にはいざとなったらこちらに走るように教えてある
あのような策を講じた以上、ノルズリの反発は必至だろう
だから、クロワルースがどんな目的で戻ってきたとしても
決して戻さないように
『仮の』捕縛をして『乗り物』を殺害ないし破壊し
自分のところに連れてくるように副官へ命じた
クロワルースに恨まれることも覚悟のうえで
「申し上げます!」
そんなことを考えていると副官が慌てた様子で入って来た
彼の両手は血に塗れて居る
それも、人間の・・・・・・
クロワルースが一緒ではない事と
副官が言いよどんだ様子である事がノーヒアに最悪の事態を予感させた
「どうしましたジャヴェル?」
それでも、敢えて平静を装い聞く、促す
この策を講じたのは自分だ
その結末を知る義務がある
どのようなものであろうとも
「クロワルース様が、御自害なされました」
その覚悟をしていたはずであったのに
ノーヒアは声もなく崩れ落ちた
副官が人を呼んで医務室に運び込まれるまで茫然自失だった
その間に思い出すのは、クロワルースとの日々だ
両親を亡くしたまだ赤ん坊のクロワルースを引き取り
不仲な妹の代わりのように慈しみ育てた思い出
自分の言うことをきちんと聞くように
自分を全面的に信用するように育ててからノルズリへ出した
彼女との手紙のやり取りでノルズリの内情を探る事もできた
手紙—そこでノーヒアは思い出す
向こうでできた親友の妹が病で早逝した事
入れ替わりに生まれた仔馬を妹の生まれ変わりとして育てている事
クロワルースは全てノーヒアに伝えていた
ノーヒアはクロワルースの事情を全て知っていた
ただ知っていただけで理解していなかった
もしも・・・・・・
もしも、副官に任せずに事情を知るノーヒア自身が出向いていたら・・・
「裏切者は、お前の方だ」という遺言を彼女が知ることになるのは
ずっと後のことだった
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時代はさらに進んで、ノルズリの反乱から200年後
妹とその部族は、浮遊城と運命を共にした
妹は最後まで説得に耳を貸さず、ノーヒア自らが処断した
カオニュをはじめとしたノルズリの生き残りたちは脱出を拒んだ
「どうせ、この世界に自分たちの居場所などない」
「これは、あなたの望んだ結末なんだよ」
カオニュはそう言い捨てて救助の手を振り払い
隔壁を下ろしてその向こうに去って行った
浮遊城の崩壊は早く、彼女らを見捨てて脱出するしかなかった
その帰り、ノーヒアはいつまで経っても帰れないことに気づいた
座標は合っているが、目的の島がない
争いと変化を避けるために移り住み拠点としたはずの島は
跡形もなかった
何らかの兵器で消し飛ばされたのだと、彼女は知った
近くを航行していた船の目撃情報から『トリカゴ』の仕業と分かった
『マリー・ア・ヴェール』などという巨大空母は嫌でも目立つ
それが単独で行動していた
その艦長を兼任する司令官は、確か・・・・・・
「これは、罰、なのでしょうか・・・」
ノーヒアはもう、泣くことも怒ることもできず
ただ大海原を見下ろす事しかできなかった
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リザレクションの時代
時の恩恵を得てヴェストリの復興は成った
ジャヴェルはそのためにゾラリアに下り『猟犬』となってでも
金を集めた
金の無心だけではない
『大戦』そして『冬の時代』
どれも悲惨な結末に終わった理由は
人々が塗炭の苦しみに喘ぐことになったのは、なぜか?
ジャヴェルは転生の間も思考し続け一つの結論へ至った
『法』が機能しなかった、誰も『法』を守らなかった
それこそが原因だとジャヴェルは断じた
『秩序』をこのリザレクションの時代にもたらす
それこそが世界を救う唯一の方法だと考えた
歴史の再現や光による救済など彼は待つつもりはなかった
幸い、『猟犬』の団長も副長も同じ考えだった
だから彼はいつしか同胞たちのためにも働くようになった
まず経済の中心地のエルセアで秩序を広めようと思った
その次はブルガンディだ
シャットらを駆逐すればメルキア全土が『法』の支配に入る
そう思っていた
その試みは頓挫した
彼が『貧しい貴族』の過去の罪状を理由に捕まえようとした際に
激しく抵抗してきた娼婦の娘
突き飛ばした彼女が死んだのは事故だった
そして名前も知らない娼婦が死んだことに彼は頓着しなかった
だが、彼女の住処の家主たちは違った
それまでの大人しさが嘘のように豹変し『猟犬』を次々と狩って回った
さらに他のギルドや自警団、王侯貴族に至るまで手を回し
『猟犬』への支援を断ち切って孤立させたばかりか
エルセア追放令まで出るに至った
ゾラリアへ『貧しい貴族』を届けたジャヴェルに待っていたのは
刑務所という罪を償う施設の存在を蔑ろにされた上に
入れ違いの形で出された警告を無視された司法からの強烈な怒りだった
『猟犬』には解散命令が出され、エルセアの『猟犬』たちにも帰還命令が出た
もちろん『貧しい貴族』は釈放だ
ジャヴェルは失望のうちにゾラリアを去った
不幸中の幸いで、彼があちこちを転々としたおかげで
『パトロン・ミネット』の爪牙にかかることを皮一枚で避け続けていたのだが
ジャヴェルはそんな事には思い至りもしない
ジャヴェルはブルガンディでノルデン行きの船を待つ間、
自分一人だけでも報復すべく『パトロン・ミネット』の情報を集めた
その結果分かったことは、自分が今も生きているのは
奇跡の産物だということだった
奴らは『トリカゴ』というだけではなかった
あの巨大空母『マリー・ア・ヴェール』を運用していた艦隊の幕僚で
構成員の全員が上位ネームドクラスの実力者
しかもリーダーはあの蒼龍アリクレールのドラゴンライダーだと言う
あんな安っぽい家に集まっているのがおかしい連中だった
もうこれ以上、外をうろつくのは危険でしかない
連中は今も『娼婦殺しの実行犯』を探している
ゾラリアへ行っても仲間に迷惑をかけるだけだろう
ジャヴェルはヴェストリへの帰還を決意した
元居た故郷『ノルズリ』が消滅している今は、そこが彼の故郷だった
ノルズリの長のミューザ姫はまともではない
呪術で民を導くなど、いつの時代の存在なんだと思う
あいつが長でさえなければ、幼い末の妹が病死することも
ジューラ先生が追放されることも
すぐ下の妹が戦士の道を選び反乱に加担して死ぬことも無かっただろう
ジャヴェルは苦々しく当時を思い出していた
もしも、彼女たちがこの時代に転生してきたら
すでに転生しているかもしれないが
二度と、あの悲劇は繰り返させない
そう心に決めた
そのためには、『法』が必要だ
ゾラリアの連中は話にならない
誰も彼もが私利私欲優先で闇の軍団という犯罪者集団と結託する始末だ
ジャヴェルはそう思っていた
『猟犬』の活動を認めず解散を命じられたことで不信は決定的になった
かといって光の勢力は頼りにしていない
ゾラリアどころか小国の正規軍ですらない冒険者など
ジャヴェルには傭兵でしかない
彼の望みは『ノーヒアの暗躍による秩序形成』に託されていた
ずっと昔から今も、これからも
そのために『ノルズリ』の滅亡にすら加担したのだ
「ジャヴェル、客人です」
その絶対の忠誠を誓った主人が縛られた状態で彼の前に現れるのは
その回想後、間もなくだった
(つづく)
<解説>
解説1:副官ジャヴェル
名前の由来はレ・ミゼラブルの主人公を追い回している警察官から
ちなみにフランスのアルボワには「ジャヴェル川」という河川があります
なので・・・・・・・・
解説2:ジャヴェルの妹
「転生してきたのを手にかけたのは誰か」ということは
彼はまだ知りません
上の妹は『シェパード』のコードネームだけ知っている状態ですが
彼だと気づいていません
肝心の末の妹は顔も名前も知りません
ではまた