Monster Makers’ Conflict-第2部第3章第0話:最後のノルズリの最期
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第2部:歴史の復活
第3章スタートです
////////////////////////// //////////////////////////第2章:メルキアの危機
第0話:最後のノルズリの最期
『フェニキス』という国家の成立については、あまり知られていない
ただ、冬の時代の始まる以前から『世界滅亡』を予見していて
あちこちから文明や文化を『収奪』して回っていたことで有名だった
『大戦』が終わり、文明が崩壊した後で
彼らは『世界の再生』を標榜した
それが、その場に残った希望であっても
その部族が守り抜いた小さな灯であっても
構わずに彼らは奪い去った
時に力ずくで、その場の人々の命をも踏みにじりながら・・・・・・
*
*
*
「オルボワ、オルボワったら!」
オルボワと呼ばれた幼い少女は目を開けた
日向ぼっこをしていたら眠っていたらしい
心配そう見知った二つの顔が覗き込んでいる
二人とも同い年くらいの少女だ
自分たちは、死んだピエテ姉さんに育てられた
『ピエテの三妹』だったと思い出す
「も~、やっと起きた!」
自分に話しかけている
短髪のおでこが目立つ子はクロワルース
その傍らで頷いている
あまりしゃべらない、赤い髪のガッシリした体格の子はアルボアと
クロワルースは思い出していた
二人とも、これでもれっきとした女の子だ
・・・どうしてこんなに、思い出すのが遅いのだろう
まるで、ここが遠い昔のようだ
「ミューザ長老が呼んでるよ
カオニュに使う薬草を教えるって!」
クロワルースが続ける
そうだった、自分たちはノルズリの長老の手伝いで
あのカオニュという赤ちゃんの面倒を見ているんだった
カオニュは・・・・・
・
・
・
(冬の時代:セントーラ)
「っつ・・・」
オルボワは幼い日の記憶の夢から目を覚ました
あれは、もう二度と戻らない遠い昔の出来事だ
友人二人も妹分も、もういない
今の自分は子供ですらない
それにここは、フウイヌム族の都市国家『セントーラ』だ
現在、文明や文化を収集して回る文明維持国家『フェニキス』に侵攻を受けている
それにしてもまさか、『フェニキス』が本気で中立都市に攻撃をするとは・・・
オルボワは記憶を呼び起こした
防衛部隊があらかた返り討ちにされ、シールドも消えた
スタッフの退避とデータの避難を始めようとしたところで
『トリカゴ』を含む別の勢力が介入して停戦を呼び掛けた
その地上からの映像を見ていたら、突然酷い衝撃を受けたところまでは覚えている
「誰だ、勝手に攻撃したバカは!?」
「捕まえてやつらに差し出せ!
でないと俺たちみんな殺されちまうぞ!!」
『フェニキス』側の通信だ、相当混乱している
どうやら『フェニキス』の攻撃部隊の一つが停戦を受け入れずに勝手に攻撃をしたようだ
その結果、『トリカゴ』に敵とみなされ掃討されつつあるらしい
はっとして、気絶するまで調整していた目の前の装置を見た
電気が消えている、全てのランプが、非常を示すものでさえも
発電施設に深刻なダメージを受けたらしい
停電だけであってくれと願いながら、手動で非常電源へ切り替えた
生き返った画面には『エラー』の赤い文字
キーボードを叩いても、復旧しない・・・
「・・・っくそぉ!!」
苛立たし気に拳をコンソールに叩き付ける
長い時間をかけて作り上げられ、もうすぐ完成したはずの『ソレ』は
永遠に機能しなくなった
世界は救われたはずだった
あの身勝手な『フェニキス』さえ、あんな暴挙に出なければ・・・・・・
この事をフウイヌムの最高責任者に伝えなければいけない
世界を救う手段は失われた
自然に回復するまで待つしかなくなった、と
絶望と疲労で倒れそうな体に鞭打ちオルボワは起き上がる
周囲を見渡し声をかけるが、返事はない
倒れている同僚を見て回り
生きているスタッフは自分だけだと悟った
彼らの頭脳あってこそ、ここまでできたのに・・・
もはや装置を作り直す手段すらも失われた
それに、彼ら彼女らが一体何をしたというのか?
少なくとも、こんな最期を迎えていい人間では無かった
誰もがこの仕事に人生を注ぎ、世界を救いたい一心で心血を注いできたのに
この世には神などいないのか?
絶望したその時、通信用のディスプレイの一つが起動した
見知った顔、それでも二度と見たくない顔が映る
「何の用?」
そっけなく相手に言った
「久しいな、我が娘よ」
その言葉にオルボワは反発した
「姉さんを生贄にした挙句に、
頭を下げてまで姉の救助を頼んだ私を切り捨てた
そんなあんたを
父親なんて思っちゃいない!!」
この幼少時の出来事がきっかけで、オルボワはフェニキスを離れた
そしてノルズリの長に拾われたのだが・・・
今の彼女は外に出て得た全てを失っていた
家出した自分を拾って育ててくれた部族も、
妹のように可愛がってくれた『もう一人の姉』も
二人の友人も
かわいい妹分のカオニュすら・・・・・・
そして今、ついさっきまで一緒に働いていた大事なチームも失った
世界を救うはずだった装置も破壊された
こいつのせいで、全部・・・
「まぁ、そんな事はどうでもいい
アレはそうするしかなかったのだ
それよりも世界再生装置はどこだ?」
父親はあっさりと長女を犠牲にした件を流して用件を伝えてきた
不思議とオルボワはそれを聞いても怒りは沸かない
むしろなんとなく、男の言葉に安堵した
今更、父親の情に目覚めたなどと言われても困るし信じられない
相手は『知識や技術を強欲に求めるだけの人の皮を被ったバケモノ』だというのが
彼女のそれまでの認識だったのだから
オルボワはその事と、彼の探し物を知った事で
少しだけ機嫌を直した
「いいわ、教えてあげる
たった今、あなたたちが壊したのがそうよ」
彼女の目の前で、男は驚愕に目を見開く
「な、なんだと・・・!?」
思った以上の効果に、オルボワは喜んだ
「アレが、あんな大きな効果をもたらす装置が
まさかトランク一個で持ち運びできる大きさとでも思ったの?
”都市規模の大きさ”になるのは、当たり前でしょう?」
心の底から憎い相手の鼻っ柱をへし折れたことに
彼女は歓喜していた
背後の『エラー』の画面を指さして見せると
相手は口を開けて絶句した
「な、ならば、設計図はあるだろう?
それをこっちに転送するんだ!」
見たこともないほど狼狽した様子の相手に
オルボワは喜んで告げた
「いやよ」
「わがままを言っている場合か!?
その装置は、この世界を救うためのものだろう!?」
それが説得のつもりなのかと、オルボワは呆れた
必要な知識を持ったスタッフは物言わぬ骸となって部屋中に転がっている
彼ら彼女らの協力がなければ設計図があったとしても完成は不可能だ
設計図はあくまで初期案のものでしかない
どれだけの修正を重ねてきたとこの男は思っているのだろうか?
「世界の再生ね・・・・・・
大した大義名分よ!
あんたは結局、自分が救世主になりたいだけの
器の小さい小物でしかないわ!」
相手の顔が怒りに染まるが
思い返したようにぐっとこらえるのを
オルボワはじっと見ていた
男には『世界再生装置』の作り方など分からない
オルボワを含めてごく少数しか全貌を知らない
だから、オルボワにへそを曲げられたら困る
今この場で圧倒的優位に立っているのはオルボワだ
オルボワは、心底憎いこいつを今、蹂躙しているのだと
あの男よりも今は立場が上だと言うその事実を
噛みしめながら続けた
「世界を救済したいなら、ノルズリはどうして滅んだの!?
アルボアたちは、ミューザ長老は・・・
いいえ、ノルズリだけじゃない!
優しいルフィーアもヴィシュナス先生も・・・・・
みんな、あんたが殺したようなものよ」
これだけ言えば自分が非協力的な理由として十分すぎるだろう
どれも誇張のない事実だ
皮肉にも、相手は理解のある理性的な男だ
自分が感情で拒絶しているのでなく
まったく信頼できない敵として見ていることを
これで悟った
「オルボワ、頼む、設計図をくれ」
あの男が、家族すらも研究素材でしかなく
無能と思った輩は実の子ですら即座に切り捨ててきた
あの氷像が
自分に『頼む』と言って頭を下げた
オルボワはこの光景を生涯一度でいいから見たいと思っていた
こんな状況でなければ、帰宅してからの祝杯を楽しみにしていただろうが・・・
『酒』で思い出す
あの、自分たちを気にかけてくれた酒好きのトリカゴの司令官
彼は過去の戦役で海の底に沈んでしまったが
『何か困ったことがあったら使ってもいい』と言われて、
事前に彼から渡されたものがあった
骨すら回収できなかった彼の形見になってしまったそれは
スケジュール帳に挟んであったはず・・・
「そうすれば、お前が望むものは何でもくれてやる
私の死が望みなら、世界が救われた後で好きにして構わない
約束しよう!」
考えている間に、あの男は沈黙を思案と受け取ったのか
そんな約束を言い出していた
その約束が本心からか偽りかオルボワにはどうでも良かった
ただ、死ぬ前に見たかった
こいつが絶望する顔が
「これが、何か分かる?
『トリカゴ』司令官の発行した許可証よ」
「!?なんでそんなものを・・・
おい、何をする気だ!?」
案の定、狼狽しだした相手を無視し
司令官から渡されていたカードを取り出して空いている通信装置に
その中のチップを読み取らせる
通信装置は非常電源でも十分動かせるはずだ
『接続、こちらは「トリカゴ」ネットワークです』
『「許可証」確認完了、』
思った通りの結果にオルボワは内心満足した
「な、なんだ!?」
画面の向こうで何かが起きたらしい
激しい爆発音がして向こう側が揺れ、男の居場所が赤い非常灯で満たされ
アラームが聞こえてくる
「『トリカゴ』の空爆だと!?
まさか地下にまで攻撃を届かせるとは・・・
・・・隔壁を閉鎖しろ
構わん、ここが無事なら後で再建できる」
どうやら主要メンバー以外を切り捨てて自分は助かるように
仲間と話をしているらしい
つくづくゲスだとオルボワは思ったがそれでいいと切り替える
どうせ今から絶望の中で死んでもらう相手だ
なら外道であってくれたほうがいい
死んだ後も顔を合わさず済むように
『特別権限を実行します、第1096私掠艦隊の最高権限を確認』
望む結果が出たことを歓喜しながら
それを表に出さないようにオルボワは声を出した
「最後に、設計図について言うわ
設計図はあるわよ、ここにね」
オルボワは、自分の頭を指さした
その間も片方の手で通信装置を操作する
「あんたとの思い出を消去すれば、入れるのは簡単だったわ
姉さんと母さんのことだけ覚えていればいい
あんたは要らない!!」
それを聞いた男は、一瞬だけ目を見開いた
オルボワは訝しむ
思った反応と違った
いったい、何にショックを受けたのか分からない
「オルボワ、そちらに送った部隊に救出作戦を行わせるから
そこで待っていてくれ」
その言葉を聞くと同時に、
オルボワは護身用に持っていた銃を引き抜いて顎の下に銃口を当てた
「ま、まて、早まるな!!
お前の脳が壊れたら・・・・・!」
実の娘の命よりも設計図を優先する父親には何の感慨も抱かない
姉を生贄にするような男だからそれは予想の範囲内だ
オルボワは時間が欲しかった
『ネットに接続完了』
『相手を選択してください』
『総司令につなぎます』
その時間稼ぎは、功を奏した
「こちら、総司令官だ
第1096私掠艦隊、この回線を使ったということは何か・・・・・
ん・・・あなたは?
なぜ、この回線を使えるのだ?」
見知った顔のユニコーン族の女性がそのディスプレイに映った
「聞いて!
あいつはまだ地下シェルターで生きています!」
叫ぶように言いながら空いている手で男の映るディスプレイを指さす
それを聞いて、総司令はその画面へ顔を向ける
男は完全に硬直していた
そういえば、この都市国家は『トリカゴ』も留学生や人員を送り込んでいたと
オルボワは思い出す
彼らに被害が出たのなら、この苛烈な攻撃も
『フェニキス』本土への総攻撃も理解できた
「感謝する、友よ
酷い有様だ
すぐ部隊を向かわせる、待っていてくれ」
通信は切れた
もうすぐ『フェニキス』は終わる
姉の無念も晴らせる
オルボワは笑った、心の底から
「そんなに・・・
それほどまでに、私が、父が憎いか?
オルボワよ・・・」
オルボワは笑いながら崩れ落ちた
男が画面の向こうで身を乗り出す
「何をしている
早く部隊を最優先であそこへ向かわせるんだ!」
オルボワは男が部下に焦りながら出す命令を聞きながら
今度こそ銃の引き金を引いた
・
・
・
ギルガメスは通信画面の前で膝をついた
自殺したオルボワがそこに映っている
なぜ、こんな事になってしまったのか?
自分は、どこで間違えたのか?
血のつながりのない最初から実験体のつもりで購入した少女を生贄にしたことか?
それとも、オルボワの成長を信じてわざと突き放したことか?
それとも・・・・・・
「ああ、そうか」
『フェニキス』の王は、理解した
そのすべてが間違っていたのだと
自分は王として感情を押し殺して、無視してきた
それがそもそもの間違いだったのだと
「ギルガメス様、脱出を!」
「もう、遅い」
最後まで残ってくれた部下を退避エレベーターに突き飛ばしてドアを閉めた
運が良ければ、彼ら彼女らは生き延びるだろう
そして語り継いでくれるだろう
傲慢な王国とその王と王家の、自業自得の愚かな最期を
「エンキド、お前がいてくれたら・・・」
はるか昔に失った、かつての忠臣を思い出しながら
なだれ込む溶岩とともに、王の意識は蒸発した
・
・
・
「要救助者の死亡を確認しました、部屋に生存者は皆無です」
『トリカゴ』総司令官は部下から報告を受けた
落ち込みそうになる自分を叱咤して即座に気持ちを切り替えた
悼むことなどいつでもできる、今は目の前のことに集中するべきだ
友であり勇者である者の仇討ちを今すぐせねばならない
『フェニキス』本土の攻撃艦隊へ通信を逆探知して得た座標を送る
それには目標までの深度も含まれていた
「ガマグチヨタカ中佐—今は二階級特進で准将か
その第1096私掠艦隊にテストしてもらったのがあっただろう?
それを使え」
確実に相手を葬る兵器を使うように指示も出した
まもなく、部下たちは結果を出すだろう
ひとまず留飲を下げたが、まだ彼女の仕事は終わりではない
セントーラの攻撃艦隊を一隻残らず沈め
フェニキス兵を一兵残さず殲滅するように指示を出す
同時に、セントーラで生き延びている要救助者の救出部隊も旗艦から出した
戦闘が終わってからでは遅い
助言者の『女神』は、この都市が海に没し始めていることを示唆していた
時間はあまりない
オルボワたちのことは、戦後に『トリカゴ』全体に広め
その功績も称えよう
かつて彼女と学友として語り合った思い出を胸に『総司令官』は決意した
・
・
・
総司令は、目を開けた
自分たちのターニングポイントになった
あの事件の夢を見ていたのだと理解する
冷凍睡眠装置から体を起こし、起床を告げるアラームを止める
裸の肉体を見る
どこも老化は見られない
数百年前と同じ肉体だ
シャワーを浴び制服に身を包む
朝食代わりの栄養ゼリーのチューブを口にして
ひと眠りしてから
起きた彼女は時刻を見た
「『ワシ』!
三時間も遅刻してるっていうならそうだと言えと
いつも言ってるだろ!?」
総司令は、ちょうど挨拶の通信をよこした部下に怒鳴ると
慌てて廊下を走り
何もないところで転んだ
挨拶をしつつ敬礼をした兵士に心配されたが
「冷凍睡眠から目覚めたばかりで体の動かし方がおぼつかないだけだ」と
答えて取り繕う
後で医者に腰を見てもらおうと彼女は思った
『ソル系・・・惑星到着まで・・・』
行く先と到着予定日時を表示する電光掲示板を見て彼女は微笑んだ
(つづく)
<解説>
解説1:ピエテの三妹
アルボアさんには友人がいると
彼女自身がカードで言っていたので
それを基にしました
ついでに、『闇の三姉妹』イフィーヌさんへ
公式小説本編で異様につっかかっていた理由も添えて
ミリエーヌさんは5人姉妹なので対象から外れたという感じにしてみました
・・・マジです
あの人、5人姉妹の次女だというのが公式の設定なんです
長らく謎だった姉のマリエーヌさんは晴れてリザレクのカードになりました
解説2:オルボワ・リョーン
クロワルースの『二人』の友人のうちの一人
名前はフランス語の挨拶(「Au revoir(オ ルヴォワール)」=またお会いしましょう)と
フランス、ロワールの同名のワインの産地から
苗字は古来より有名な大都市であり
カニュ反乱でも舞台になった都市「リヨン」から
ちなみに、彼女の姉の名前も「リョーン」
「カオニュの乱」の生き残りで一番最後まで残った人
『フェニキスの指導者の娘』という事実はノルズリのミューザ長老を含め
ごく少数しか知らない事実
セントーラに学生としてこっそり入学し学んでいた総司令たちと友人関係なことは
極秘中の極秘事項
解説3:総司令
きりっとした端正な美女で最高権力者で
敵に対して冷酷非情、仲間や身内には公明正大で
敬意を払うべき相手には誰であろうと敬意を払う武人
・・・かつ、ドジっ子
『影武者』の他に『女神』という参謀が居ます
解説4:挨拶をしつつ敬礼をした兵士
親衛隊、全員がユニコーン族
彼ら彼女らはしっかり総司令がどういう人物かを把握しています
何が起きてもいいように最優先で最新の医療キットが回される部門
知らぬは守られている当人だけ
解説5:フェニキス王
本名はギルガメス、かつて存在した銀河の『統一国家』の長と同じ名前
すべてを手にし、そして自らの行いで失ったのはこれで二度目
ちなみに、彼はすでに転生済みでどこかにいる設定です
ではまた